東北再生経済研究所

再生だより

創造的復興はどこまで可能か

インタビュー宮城県・村井嘉浩知事

宮城県・村井嘉浩知事

 政府は6月24日、復興推進会議で2016年度以降の復旧・復興事業を総額6.5兆円に決めた。懸念された地元負担は岩手県90億円、宮城80億円、福島50億円で3県合わせて220億円。当初案に比べ70億円減額された。宮城県の村井嘉浩知事は「復興庁は要望にかなり応えてくれた」と評価。「創造的復興」を掲げてきた知事は「9割の達成は可能だ」と自信を示した。また、県民経済計算で2012年度の県内総生産の成長率(実質)が全国トップだったのは宮城県の9.7%だった。被災3県は今後数年は2桁成長が可能だと予測していたが、2桁にわずかに及ばなかったのは、復興予算の一部が他地域流用されたのと、人手不足と資材の高騰による入札不調で、事業が予算通り執行できなかったからでもある。その影響もあって、災害公営住宅の完成が2017年度まで遅れてしまう。(文責 伊藤裕造)

震災直後に合同相談窓口を設置

寄稿仙台市産業振興事業団常務理事・熊谷建一

仙台市産業振興事業団常務理事・熊谷建一

 仙台市産業振興事業団はワンストップの相談窓口が必要になると判断し、仙台商工会議所と共同で検討、政策金融公庫や弁護士会、税理士会などにも参加を求め、発生から一週間後3月18日にオープンした。ゴールデンウィークまでは無休で対応、5月末まで開設し、1,275件の相談に対応した。「中小企業者向け災害復旧貸付金制度」の説明会の開催を始め、資金繰りや雇用問題、さらに販路の再開拓などにも協力した。また、同事業団に「東北復興ビジネスマッチングセンター」を開設し、個別相談に応じた。さらに、東北地方以外の首都圏や関西圏での展示会に被災企業を誘導する「都市間連携販路拡大支援事業」にも取り組んだ。新規開業率日本一を目指す仙台市のもと、サステナブルな宮城東北の実現を目指す。

販路開拓で中小企業の復興支援を促進

寄稿仙台商工会議所中小企業支援部部長・佐藤充昭

仙台商工会議所中小企業支援部部長・佐藤充昭

 「遊休機械無償マッチング支援」など、被災直後から取り組んだ復興支援策とグループ補助金などで工場や設備の復旧で生産開始に何とかこぎつけたが、問題は販路の回復だった。そこで取り組んだのが、バイヤー経験者などを集めた専門部署を作っての支援体制。①「伊達な商談会」と②「バスツアー型商談会」で合わせて941件(2014年度)で、①の成約率が16.9%、②が18.2%と高かった(通常は5%程度)。さらに心がけたのが人材育成で、プロのノウハウを商工会議所職員に伝授し、中小企業の販路開拓力を引き上げた。また、6月には「東北復興水産加工品展示・商談会を仙台で開催、全国から4200人のバイヤーが集まり、過去最大の475商談があった。

震災復興を契機に農業を高度化

寄稿東北アグリカルチャー研究会副会長、トライポットワークス常務・菊池務

東北アグリカルチャー研究会副会長、トライポットワークス常務・菊池務

 農業被災地の復興と日本農業の問題は「農地の再整備」「被災ハウスの復旧」だけでは解決しない。我々が進めている「東北スマートアグリカルチャー研究会」は震災ほぼ1年後の平成24年(2012年)2月に正式発足した。メンバーは大学、IT関連企業、農業従事者に加え、国、地方の行政組織にもプロジェクト毎に支援も受ける形態をとり、「地域(フィールド)視点でのIT化」などに取り組んでいる。地域での実証試験、多様な農産物生産システムの開発が欠かせないからだ。具体的には露地と施設園芸へのIT適用や、高齢化した農業従事者の豊富な農業経験を新たな農業参入者に受け継ぐ仕組み創りを構築している。さらに、「津波塩害地」と「原発事故由来の被害地域」では、土壌塩分濃度の測定や空間放射線計の表示をスマートフォンの地図ソフトウェアで見るシステムのプロジェクトも進めている。今後は「職住分離の被災地農家向けの支援」などにも取り組んでいく。